乙女の破滅

古川:女社畜(27)趣味はアイドル ハロプロとJが大好きです

27歳、地獄の底の底ダンス

「いい加減、次の彼氏で結婚したい」

 

だって私ももう27歳だ。男の人ならともかく、女で27歳で独身ってまあ私のことなんだが。自分の周りがたまたま特殊なだけかもしれないが、合コンを組もうにも、もはや女性陣の頭数すら揃えられない。24歳頃から始まったFBの結婚報告ラッシュ。やっと落ち着いたかと思ったら、SNSの最大手がインスタに切り替わり、報告先がインスタに変わっていただけだった。この間、唐突に気まぐれを起こして、やっとこさインスタデビューをしたら絶望した。友人のほとんどがウェンディングドレスを着た自分の写真をあげている。地獄の底にいるような気分だった。


独身組だと勝手に仲間意識を抱いていた友人らにも大概彼氏がいた。これは先週、職場の先輩(男性)に合コンを組んでほしいと言われ、友人という友人に片っ端から声をかけまくって発覚したことだが「彼氏に怒られちゃうからやめとく笑」と返信が来たとき、いよいよ地獄の底が抜けた。
これが大学時代、いや、ほんの数年前までなら二つ返事でOKが返ってきたというのに、彼氏がいようがなんだろうが構わなかったのは、どこのどいつだお前だよ。
そこでふと、自分が以前、職場の後輩にこぼした台詞が、封印がとけた遺跡のごとく突如地割れを起こしながら出現した。そうか、みんな今の彼氏と本気で結婚する気なのか。落ち着く、大人になるというのは、こんな風に正しい身の振り方をおぼえていくその先にある結果なのかもしれない。

 

 

「いい加減、次の彼氏で結婚したい」
「まあ(私)さんももう27歳ですしね」

あの夜、実年齢は上だけど転職組なので歴は後輩という、ちょっとだけ上下関係と言葉遣いが面倒くさい後輩(男)に勝手な要望を告げた私は、そんなこんなで地獄の底の底で自嘲モードになっていたんだと思う。
おごるから付き合って、と390円のハイボールをお互い死ぬほど飲んで、それでちょっといい感じになっていたんじゃなかろうか。ただでさえ中学生から太宰と安吾が死ぬほど好きだった。

やるせなさ、酔狂、けれど全うに生きてみたくて、誰かを好きになったり、なられたり、その人への思いで明日や明後日を明るく信じてみたかった。斜に構えたスタンスを取り続けてはみても、つまるところただ寂しいのだ。単純で明快、あまつさえ、冬にダメになった男のことを引きずっている私だった。

「(私)さん、あの人は?」
「ない。から、連絡してない。もう誰とも結婚する気ないって言われた」
「あら勝手。だからバツイチなんだって言えばいいのに」


「…ねえ」
「なんですか」

こんな、いかにもかしこまって何か言います、なんて切り出し方、よせば良かったのだ。今ならそう思うのに、向こうまでかしこまってじっと目を見つめてくるものだから、あとにひけなくなってしまった。そうだ、京都に行こう、じゃないが、あのキャッチコピーの「そうだ」と同じくらい軽い思いつきが、みるみるうちに質量を増していくのが分かった。ああ、もう言ってしまえばいいじゃないか、そうだろう?

 

「○○さ、私と付き合わない?」

口にしてから、ああ私、付き合いたいと思うぐらいには目の前のこいつのことが好きだったんだなあ、と実感が沸いたのだから、私はもうただの異常だった。その前の会話は、次の彼氏と結婚したい、だ。プロポーズといえば聞こえはいいが、要は一緒に老いて死のう、だ。重たすぎにもほどがあるだろ。それに結婚したくて言ったわけじゃない、寂しさを埋めてほしくていったのだ。最終奥義・自分勝手、けれど同時に目の前の男が好きなのも本当だった。まあ、実に今しがた気づいた時点で、異常すぎるのだが。

しかし、いやだからこそ?、後輩(男)がすぐさま苦笑しながら「同じ部署はいやだよ、異動してからにしよう」と断りを入れてきて、一瞬冷や水を被った気分になっても、私は強く、折れなかった。「二件目行こう」と後輩(男)を店から引きずり出し、次の店へまたねじ込む。そこで、いったん仕事の話をはさんで、馬鹿みたいにもう一度言った。「さっきの話、本気だからね」必死か、必死だよ。

 

結局、あの夜をきっかけに、私たちは晴れて付き合うこととなった。といっても、たった1ヶ月前の話なのだから、思い出補正も何もない。ただ異常な私が「好き」という理由だけで後輩を道連れにしようとした、そしてなってくれた、という基地外女列伝である。
「わかりました、付き合おう」と大衆居酒屋の個室で後輩(男)はうなずき、ありがたくも私の彼氏へと身を落としてくれた。数回デートを重ねれば、解散時間は終電から翌朝になった。ウルトラハッピー?いや、実はそれがところがどっこい。

 

私は今、年上後輩からただの年上彼氏へとジョブチェンジした男との付き合い方が分からなくて、地獄の底とそこから少し這い出た地上とを日々行き来している。浮かれて絶望してまた浮かれるという、アホの所業を繰り返しながら、自分から言い出した負い目から核心的な質問は何一つできずに、ラインも電話も好きじゃないという男の台詞を鵜呑みにして、ならない電話を待っている。なあ、私たち今日、職場で喧嘩したんだよな

 

異常な私が実は正しいのか、それとも男が最初から最後まで正しいのか。

 

だからこんな年まで独身なんだよと言われる程度には、薄暗い方向ではじめた日記だが、現実世界の誰にも言わないから許してほしいです。27歳、地獄の底の底でダンスしてます。